生きかた上手
「生きかた上手」日野原重明著
Ⅴ 治す医療から癒す医療へ
よいかかりつけ医との出会いを偶然にまかせてはいけません。
患者の話に耳を傾けてくれる医師をさがそう
よいかかりつけ医を見つけ、その医師と信頼関係を築いておくことは、あなたの健康管理に欠かせないポイントです。
長いつきあいになるかかりつけ医は、あなたと相性がよいことが何より。
見立てがいい、腕がいいという範囲の評価に頼るより、実際に医師にかかってみて、あなたの勘を働かせるほうが確かです。
相性のよしあしは人それぞれですが、患者の話をよく聞く医師を選びたいものです。
よい医師は、その対話から診断に有効な手がかりをつかむことに長けています。
あなたが医師の前で緊張して、からだの状態をうまく説明できないときにも、「まあ、ゆっくり思い出してごらんなさい」と声をかけてくれるような医師なら、大いに信頼がおけます。
「大丈夫、よくなりますよ」と、医師があなたの肩に手を置いてくれたなら、あなたの心は晴れるでしょう。
あなたに備わっている回復力もからだ中に湧いてきます。
治りのよさも断然ちがいます。
そんなさり気ない行為も、医師の技の一つだと私は思っています。
それが先にも少しふれた物語り医学です。
私はは患者さんと対応するときには、椅子の配置なども気になります。
医師と患者が正面に向かい合うように座れば、患者さんはまるで面接試験でも受けているような気分になるでしょう。
だから、椅子は少しずらして斜に置くのです。
がんの告知のような深刻な話のときは、もっと細やかに考えます。
部屋の照明は明るすぎはしないか。
患者さんの顔あるいは私の顔は少し陰になったほうがいいか。
できれば、患者さんが私に、不安やつらい気持ちも含めて何でも話しやすいようにしてさしあげたいのです。
花は、部屋を飾るためにというより、患者さんの心を慰める存在としてそこにあることが望まれるものなのです。