第3章 選択 P60
「バケツの中」
ある日、2匹のカエルが安全な湿地から近くの農場に探検に出かけた。
そこは酪農場だということがすぐに分かった。
そこには大きな牛乳桶があった。
その中に飛び込むと、半分辺りまで生クリームが入っていた。
2匹は大興奮した。
そんな美味しい物はそれまで食べたことがなかった。
やがてお腹がいっぱいになった。
眠くなった彼らはそろそろ帰るととにしたのだが、困ったことになったと気づいたのはそのときだった。
桶に飛び込むときには、何の問題もなかった。
だが、そこから出るにはどうしたらいいのだろう?
桶の内側はつるつるしていて登ることができない。
生クリームが半分の深さまで入っていて桶の底に足が届かないから、反動をつけて飛び出すととも不可能だ。
2匹は閉じ込められてしまったのである。
半狂乱になった2匹は、つるつる滑る桶の曲面に足場にできるものがないかとのた打ち回って探し始めた。
とうとう1匹のカエルが「こんなととをしても無駄だよ。俺たちはもう終わりだ!」と叫んだ。
もう1匹のカエルはあえぎながらこう言った。
「いや、諦めちゃだめだ。俺たちがかつてオタマジャクシだった頃には、いつか水の中から飛び出して地上を跳ね回る日が来るなんて想像もできなかったじゃないか。弟よ、とにかく泳ぎ続けるんだ。 そして奇跡を祈ろう!」
しかし1匹目のカエルは、悲しげに2匹目のカエルを見つめるだけだった。
「カエルの人生には 奇跡など起とらないよ」と彼はしわがれ声で言った。
「さようなら」彼はそう言うと、ゆっくりと水の中に沈んで消えていった。
2匹目のカエルは断固として諦めなかった。
一縷の望みを捨てず奇跡を信じて、小さな円を描くように何周も何周も同じ場所を泳ぎ続けた。
1時間が経っても、彼はまだ小さな円を描いて泳いでいた。
なぜこんなことをしているのか、もはや彼自身にも分からなくなっていた。
彼の小さな筋肉が疲労で引きつってくると、水中に消えていったもう1匹のカエルが残した死に際の言葉が頭をよぎった。
「弟の言ったととは正しかったのか?カエルの人生には奇跡なんて起とらないのか?」絶望的な気持ちでカエルはそう考えた。
そしてついには、それ以上泳げなくなった。
カエルはうめき声を上げると、手足を動かすのを止めて運命に身を委ねようとした。
物語がこの場面まで来たときには、青年はもはや本を読んではいなかった。
だが驚いたことに、2匹目のカエルは弟とは違って沈むととはなかった。
なんと宙吊りになったかのように、その場に浮かんでいるではないか。
恐る恐る足を伸ばしてみると、何か固いものが足に触れた。
カエルは大きなため息をつくと、今は亡き弟に心の中で別れを告げた。
そして死に物狂いで泳ぎ続けた自分の手足の動きが作り上げたばかりの大きなバターの塊の上にはい登り、桶から飛び出て湿地へと帰って行った。
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