第3章 選択 P56
THE SLlGHT EDGE
「要するに、どちらかを選ぶということだ。 必死に生きるか、さっさと死ぬかのどちらか1つを」アンディ・デュフレーン、映画『ショーシャンクの空に』
ある裕福な男に死期が近づいたとき、その男は自分の双子の息子をベッドサイドに呼んでこう伝えた
私がこの世を去る前に、この世に生きた長い年月の間に私が味わった人生の豊かさをお前たちにも経験させる機会を与えたい。
「それができるなら、私はどんな犠牲も厭わない。だが、そんなことはできるはずもない。だからその代わりに、お前たち2人に贈り物をしようと思う」
男は息子たちにそう語った。
迫りくる死について語る父親の言葉を聞いて2人の青年は嘆き悲しんだが、父親はそれを手で制してこう言葉を続けた。
「お前たちがそれぞれに自分の冒険を楽しめるよう、必要なお金を入れるための財布を1つずつ与えよう。その財布の中に何を入れるかは、各自が自分で選ばなければならない」
父親はそう言ってベッド脇のテーブルから2つの美しい漆塗りの箱を引き寄せ膝の上に置くと、その中から何かを取り出して2人の青年に差し出した。
片方の手には、新札の1000ドル紙幣が1000枚束になったものが握られていた。
つまり100万ドルの現金である。
そしてもう片方の手の平には、ピカピカの新しい1セ ント銅貨が乗っていた。
「お前たち2人に同じ選択肢を与えよう。100万ドルか、1セントかどちらか一方を選びなさい。どちらを選んだ場合も、選んだものは財布に入れて私の執事に1カ月間預けなければならない。その1カ月の聞に、そのお金をどう使うかをじっくり考えなさい。選はなかったほうのお金は私の資産に戻され、慈善事業に寄付することになる」
「それからもう1つ」と父親は付け加えた。
「100万ドルを選ぶ場合、町にある私の銀行へ行って前払いで現金を引き出してもかまわない。1セントを選ぶ場合も同じようにしてかまわないが、1セントしか預けていない顧客に許される最大貸付金額を1日でも超えるようなことがあってはな らない。執事が財布を管哩している間は、財布の中身を2倍に増やす方法を執事が教えてくれるだろう」
もう休を休めて考えなさい。
さあ、この本を持って行って夜の間に読むといい。
明日の朝もう一度ここに来て、100万ドルと1セントのどちらを選ぶかを聞かせておくれ」
父親は息子たちに物語の書かれた小さな本を1冊ずつ手渡すと、2人にキスをして部屋から送り出した。
その夜遅く、1番目の息子はベッドに横たわり、その日の出来事を思い返していた。
「一体どちらを選べばいいのだろう?」
彼は思いあぐねた。
「それにどうして父さんは、僕らにそんな選択をさせようとしているのだろう?」
彼は眠れないまま灯りをつけると、父がくれた本がないかと辺りを見回した。
少し読めば暇つぶしになるだろうし、もしかしたら眠くなるかもしれないと考えたのだ。
その本を見つけたとき、本の表紙にシンプルな金文字でエンボス加工されている題名に彼は初めて気がついた。
そこには選択と書かれていた。
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