THE SLIGHT EDGE
第1部 スライト・エッジの作用
第3章 選択
『ホテイアオイ』
昔、大きな池のほとりに小さなホテイアオイが咲いていた。
池の反対側を見てみたいというのが、そのホテイアオイの夢だった。
その夢についてホテイアオイが独り言を言っているのを聞いた池の水は、ただ笑って素っ気なくこう言った。
池の反対側だって?
動くとともできない小さな植物に、そんなことができるわけがないじゃないか!
ホテイアオイは世界中の温暖な場所にある池や沼で、水面に浮かぶように生育する美しい植物だ。
紫がかった青、薄紫、ピンクなどの色をした繊細な6枚の花びらを持つ花が咲く。
美しさ、小ささ、繊細さの見本そのもののような植物である。
ところがそんな外見とは裏腹に、ホテイアオイはこの世で最も繁殖力の強い植物の1つでもあり、その増殖率の高さには植物学者や生態学者も目を見張るほどだ。
池の水はこの事を知らなかった。
1本のホテイアオイは5000個もの種をつけるが、新たな場所に定着するための方法としては、種を放出して気まぐれな風や水に運んでもらうよりも、短い枝を茎から水平に伸ばして「子株」を作り、どんどん増えていくというやり方を好む。
子株ができた1日目は、水以外には誰もその存在に気づきもしない。
2日自になると子株は倍の大きさになっているが、やはり誰も気づかない。
3日目、4日目と子株はその倍、さらにその倍に成長するけれど、それでも誰も気づかない。
実際、あまりにも小さいために、毎日2倍の大きさになっていても、最初の2週間は目を凝らして探さないと見えないほどなのだ。
15日目までには、どうにか30センチ四方の水面を覆うくらいの大きさになり、池のガラスのような緑色の水面に少量のラベンダーピンクが点在しているのが見えてくる。
1カ月も3分の2を過ぎ20目ともなると、小さな布片のような葉の固まりが池の向こう岸へ向かって漂うように浮かんでいることに、池のそばを通りかかった人が気づくけれど、捨てられたバスタオルか包装紙だろうとしか思わない。
それから1週間以上が過ぎた29日目、池の水面の半分以上にはまだ何も生えていない。
しかし、それからちょうど24時間後の30日自になると、水面は完全に見えなくなってしまう。
紫がかったピ ンク色のホテイアオイが、池全体をすっぽりと覆い尽くしてしまうのである。
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