第12章 自分に投資しよう P290
『軌道修正』
完璧な直線道路、あるいは完璧な直線だという錯覚を与えるような道路で車を運転しているところを想像してみてほしい。
もちろん、その道路は本当は全然まっすぐではない。小さな凸凹や傷とか、微妙な坂や傾きやねじれなんかがたくさんある。
どうしてそんなことが分かるのかって?
自分が運転しているところを想像してみればいい。
永遠に直線が続いているかのように見えるどこかの高速道路を運転しているときでさえ、握ったハンドルをほんの少しも動かさずにいるだろうか?
そんなことはない。ハンドルを絶えず左右に動かし、進路を細かく修正しているはずだ。
そんなふうにハンドルを絶えず動かして調整するのは、体にしみ込んだいつもの行動なので、おそらくもう意識することもないだろう。
けれどもハンドルをビクとも動かさずにいようと決めたなら、1分と経たないうちに道路から外れてしまうはずだ。
人生もまさにそれと同じなのだ。
ところでこの常時軌道修正モードが適用されるのは、設計の到らないアスファルトの道路上で車を運転するときだけではない。人類が発明した最も洗練されたの形態である、宇宙飛行でも同じことが起こる。
現代工学の軌跡であるアポロ宇宙船が宇宙飛行士を安全に月面に着陸させるまでの道のりで、実際に軌道に乗っていたのは全工程のわずか2、3%の時間をにすぎなかったという。
つまり地球を出て月に到達するまでにかかった時間の少なくとも97%は、軌道を外れていたということになる。
40万キロ近い距離を旅する中で、宇宙船が実際に軌道に乗っていたのはわずか1万2000キロメートルでしかなかった。別の言い方をすると、30分間の飛行中に宇宙船が軌道に乗っていたのは1分にも満たなかったのである。
それでも宇宙船は月に(しかも安全に)到着し、その後地球に生還した。
なぜそんなことができるのだろう?
それは現代の宇宙旅行というものが、行動しながら軌道修正を繰り返すスライト・エッジの優れた見本だからである。
膨大な資金を投入し、技術の粋を集め、細心の注意を払って調整された当時の最先端のこの宇宙船が、自らの軌道の誤差の修正に30分のうち29分を費やしていたというのならば、あなたにこの宇宙船の上を行くことを期待するのは理にかなったことだろうか?
自分自身の目標の追求において、あなたはアポロ宇宙船に匹敵するレベルの正確さを備えていると仮定しよう。
すなわち、1年間にせいぜい10日も軌道に乗っていればいいということだ。
今度、自分が軌道を外れてしまったと落ち込むことがあったなら、アポロ計画に事を思い出して一息つこう。
スライト・エッジを理解していない人たちは、軌道を外れることは何が何でも避けるべきだと考える。
軌道を外れれば失敗すると思っているからだ。
だがスライト・エッジを理解している人たちは、トーマス・ワトソンの失敗についての哲学を受け入れる。ちょっと長いが、ワトソンの言葉を紹介しよう。
「成功の秘訣を教えてあげよう。本当に簡単なことだ。失敗する割合を2倍に増やせばいい。失敗は成功の敵だとあなたは思っている。しかし、そんなことは全くない。失敗してがっかりすることもあるだろうが、失敗から学ぶこともある。だからどんどん失敗すればいい。できるだけ多くの失敗をしよう。なぜなら成功は失敗の向こう側にあるのだから」。
アームストロングとオルドリンは確かに月面を歩いた。
そして彼らが月面を歩けたのは、ひとえにロケットが月に到着したからだ。
だからあなたにもできる。
なぜかって?
あなたも常に軌道を修正することができるからだ。