『Live Happy』『スライト・エッジ』習慣を身に着けよう!

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第4章 ありきたりな事をきちんとやる P82

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『「1日1個のリンゴを食べれば医者は要らない」べンジャミン・フランクリン「貧しきりチャードの暦」』
早朝6時30分、僕はフェニックス空港に到着した。
飛行機の出発時刻まではまだたっぷり時間があったから、靴を磨いてくれる所がどこかにないかと思って空港の中を歩き回った。
その時刻の空港にはほとんど誰もいなかったが、やがて靴磨きのスタンドを見つけることができた。
40代半ばから後半くらいの女性が1人、客用の椅子に腰かけてペーパーバックの本を夢中で読んでいた。
僕が近づいていくと女性は顔を上げ、微笑みながら心のこもった挨拶をし、靴磨きをご所望かと尋ねた。
そうだと僕は答えた。
彼女は立ち上がり、読んでいる途中のベージの角を丁寧に折り曲げてから靴磨きの道具を手に取ると、愛想良く僕を席へと案内した。
彼女が靴を磨きにかかると、僕たちは会話を始めた。
来る日も来る日もそこで靴磨きをして5年になると彼女は言った。そしてその仕事を始めたとき中学生だった娘が、今では高校のチアリーダーとして活躍していると誇らしげに付け加えた。
実はその娘がつい最近 、高校生のチアリーデイ ング・コンテストで優勝し、その年の夏にダラスで行われるチアリーディングのキャンプに参加したがっているのだという。
「そのためにはユニフォームと飛行機のチケットを買ってやらなきゃいけないんですけど、そんなお金を一体どうやって工面したらいいのかしらねえ。ましてやキャンプの参加費なんて、とても無理だわ」。
彼女は小さな声でそう打ち明けた。
スタンドのすぐとなりは通用口になっており、ちょうど夜勤と日勤が入れ代わる時間帯とみえて、整備士や管理人が次々に出入りし始めた。その人たちの誰もが彼女と挨拶や雑談を交わそうと、スタンドに立ち寄って行く。
彼女が彼ら1人1人の名前を覚えていて、全員と親しく付き合っていることは明らかだった。
一緒に座っていたほんの数分のうちに、靴磨きの女性と彼女の人生についてかなりの事が分かった。
彼女は自分の家族を大切にしていて、人好きな性格だ。誰とでもすぐ友達になれるし、外向的で弁も立つ。つまり、生まれつきコミュニケーションの才能があるのだ。
それに働き者でもあって、自分の仕事を楽しんでいるのが見て取れた。
椅子に腰かけ、靴をピカピカに磨いてもらいながら彼女との生き生きした会話を楽しんでいると、僕は「もし...だったなら」と考えずにはいられなかった。
僕は彼女が夢中で読んでいた本の題名に気づいていた。それは人気の高いロマンス小説だった。
仕事の空き時間に架空の人物の人生を束の間楽しんで、退屈な時間をやり過ごすことができるよう人々が持ち歩く類の本である。
スタンドの壁際には、読み古したロマンス小説が何冊も積み上げられていた。
彼女がとても読書好きであることは間違いない。
もし彼女がそれまでの5年間、客待ちの15分か20分という細切れの時間に、読後すぐに忘れてし まうようなロマンス小説の世界に浸るのではなく、本当に人生を変えるような本を読んでいたとし たら?
積み上げられたそれらの本の中に、
ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』( きこ書房) やスティーヴン・コヴィーの『7つの習慣:人格主義の回復』(キングベアー出版)やマティ ン・セリグマンの『世界でひとつだけの幸せ:ポジティブ心理学が教えてくれる満ち足りた人生』 (アスペクト)が含まれていたとしたら?
僕はそう考えずにはいられなかった。
読む本の種類というちょっとした事を5年前に変えていたなら、彼女の人生は今頃どうなっているだろう?
今でもチップを貰って靴を磨いているだろうか?
それとも靴磨きのチェーン店の経営者にでもなっているだろうか?
安月給だとか、誰にでもできる簡単な仕事だとか、僕がそんなふうに批判しようと思っているわけではないことをどうか分かってほしい。
収入の少ない仕事に就いていても、豊かな人間関係と喜びに満ちた人生を送っている人たちも僕は知っているし、ものすごい大金持ちなのに非常に不幸な人たちも知っている。
それに僕は通俗小説をつまらないものだと言っ ているのでもない。
ただ、その靴磨きの女性が自分の娘を何より大切に思っていて、才能ある娘が望んでいるものを与えてやる能力が自分にはないことを悲しんでいることは明らかだった。
また彼女にはそれを、いやそれよりはるかに多くのことを娘にしてやれるだけの収入を得られる才能も、人間性も、スキルもあることも明白だった。
それなのに、何かが欠けていた。
その何かというのは、良い本を1日10ページ読むことで埋められるような簡単なものなのか?
そんな小さな、一見取るに足らないような事で、誰かの人生の軌道がすっかり変わってしまうなんてことがあり得るのだろうか?
答えは断固イエスである。
間違いないと断言できる。
なぜなら10ページの良書が僕の人生にもたらした変化を自分でも実感してきたし、他のとても多くの人たちの人生でも同じような事が起こったのを目にしてきたからだ。
けれども世の中には、この快活な靴磨きの女性とまったく同じような人たち(個人的な望みや夢を抱いており、素晴らしい人間性や特質を持っていて、夢を実現する際に必要となる能力にも生まれつき恵まれているにも関わらず、その後の人生で夢を叶えられずに終わってしまう人たち)が非常に多い。
せっかく良いものをたくさん持っているというのに。
僕は彼女に靴を磨いてもらいながら、胸を高鳴らせて笑いさざめく幸せそうな10代の少女たちに囲まれて、彼女がチアリーディングのキャンプ地であるテキサス行きの飛行機に乗っている姿を想像した。
しかし、現実の彼女の人生でそれが実現することはきっとない。
挫折感と悲しみが入り混じったような気持ちが込み上げてきて、彼女にあり得たはずのもう1つ の人生が僕の脳裏に一瞬ありありと浮かんだ。
僕はその日、飛行機の中で本書を書き始めた。