生きかた上手
「生きかた上手」日野原重明著
Ⅲ 寄り添って生きる
人はひよわいからこそ、寄り添って生きることができます。
その女性の不幸は、がんであったことよりも、不安を語れなかったこと
先ほどまで、私はホスピス病棟の一室にいました。
その30分ほどのあいだに、患者さんのこわばった表情が見る間に和らいでいく。
そばにいた医師や医学生がまずその変化に気づき、はっとしたようでした。
私はただ、患者さんにはいつでもするように、75歳になるその患者さんの目線に合わせてベッドの傍らに座り、その手を取って、思いのあれこれに耳を傾けていただけなのです。
そうするうちに、進行した肺がんで呼吸さえ困難なはずの彼女が、私との会話のあいだ一度も呼吸に苦しむ様子もなく、笑みまで浮かべるのです。
やっと本音を聞いてもらえると言いながら。
「一番おつらいことは何ですか」という私の問いかけに、彼女は、「不安な心の内を誰かに聞いてほしいのに、誰にも話せず、聞いてもらえそうにもなく、ずっと一人でこらえてきたことです」と答えました。
彼女が聖路加国際病院のホスピス病棟に入院したのはつい先日のことで、実は半年ほど前に別の行院で肺がんを告知されたものの、がんがどんな病気かよくわからない。
医師にあらためて説明を求めるのも気がひけた。
ただ、あまり先が長くないんだなとは自覚していた。と言うのです。
重大な告知をしたつもりでいるのは医師ばかり。
その医師とのあいだに、細やかなコミュニケーションなどなかったことは明らかです。
彼女の病は、もはやどんな医療をもってしても治せません。
病状からして、おそらくあとひと月のいのちでしょう。
では、医師や看護婦の役目もここまでかと言えば、むしろここから先ほどが医療者の資質が問われる場面だと私は思っています。
医療の対象は「病」ではなく、あくまで「人」なのですから。
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